逃げぬ間に溶かな真昼のパレツトの色のあはひに降る木もれ日を
色あひをゆづらぬわれの絵を囲む会議に雨を気にしてをりぬ
コピー機の青き光の走る夜いまだ下絵の決まらぬままに
われの絵にクレーム多きその人の編集後記は私信の香り
カンバスの匂ひは満ちてゴーガンの物量感ある夏がまた来る
昂りを覚えず官能小説の挿絵を描く日の白きししむら
熱帯夜に描く絵のどこかゆらゆらと地震(なゐ)去りてなほ輪郭あやし
ミユージアムを出でれば暗きバスキアとすれ違ひたるごとき熱風
ひとつ先の季節ばかりを描きをれば記憶のページは曖昧に開く
チヤイム待ちて君の顔描くデツサンの次第に影の濃くなる深夜
半身のやうなる君は半身を三つも持ちて日日太りゆく
茎太く直立つわれを愛でながら君の養ふ蔓性植物
飾る絵を選ばむと見れば赤色の花の絵ばかり夜の画室は
さびしみて緋を朱を紅を重ねれば濁ると教へてくれし君はも
あえかなる部分をひとつに合はせゐつ痛みの水に皮膚の張るまで
マグリツトの鳩かもしれぬ秋晴れをはばたくやうに樹樹がざわめく
肌色を紫に塗る衝動のありて開きし「きいちのぬりゑ」
空洞の胸を抱きたる開脚のイーゼルは夜の気配に軋む
硬質のジヤコメツテイのデツサンがダンスをはじめるやうな冬空
色も水も欲しいと言はぬ記念日のエア.プランツをひなたに移す
( )内はルビ
第47回角川短歌賞佳作 作品抄出20首〈一部改訂〉
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