音絶えしときにちひさき地震(なゐ)ありて東京が雨後の水切りしたり
あのひとは妖怪図鑑に載つてゐるさうたしか害はないはず

六月の図書館奥にならびたるむなむねむねむらむら群ようこ

フアブリアーノ、アルシユ、モンヴアル愛人の名のやうな画紙の目を読みてをり

ミステリの挿絵のなかの犯人は密なる筆致にあらはとなりぬ

図書館より借りたる本を貸しに来るマリさんはまた返却日に来る

筆斑(ふでむら)はねらひどほりの位置にあり偶然のやうに君に手を振る

夕食にわがとりおきし煮卵をつるりと吸ひ込みアヤさんは笑む

ひとつ傘さすは苦手な君とゆくわが右腕は濡れ色の筒

くちびるの幅そのままに蕎麦すする君の中なるストライプの雨

                     ( )内はルビ
         第52回角川短歌賞予選通過作品 抄出10 首